Chromeに大きな変化が起きている。
GoogleがGemini 3というAIをコアに据えたことで、ブラウザはもはや「ただの閲覧ツール」から、「何かを主体的に実行するエージェント」に化けつつある。



サイドパネルにはマルチタスク支援や画像生成AI(「Nano Banana」なる新顔も)まで統合され、クリエイティビティの解放を謳っているが、本質的には受動的なソフトから能動的な実行者への進化だ。
とくに注目なのは、米国中心で展開中の自律型AI「Auto Browse」や、各種ネットショップを横断し「最安値」を探してカート投入から決済直前まで自動で代行するUniversal Commerce Protocol(UCP)のような仕組み。
AIが心理学的な「決断疲れ」から現代人を解放する特効薬になる、というわけだ。
ただここには罠も多い。
自動化バイアス(Automation Bias)の危険性。
人はAIの提案を過信し、検証を怠りがちになる。
現にエア・カナダのAIチャットボットが誤情報を垂れ流して企業側が法的責任を問われた事件もある。
AIが「最安値」と判断した商品が、本当にユーザーの利益にかなうか。
その選定ロジック、アルゴリズムの透明性が極めて重大な懸念ポイントだ。
セキュリティの観点でも気になる点は多い。
AIの「おすすめ」をユーザーが「承認」ボタンひとつで受け入れる未来は、本当に安全なのだろうか。
個人データとAI機能の深い連携(「Personal Intelligence」機能)は、利便性と引き換えに「プライバシー・パラドックス」、つまり利便のためにあっさりと自分の情報をAIに差し出す心理を極限まで試しつつある。
メールや会話など、あらゆる過去の情報を「記憶」するAIのもと、まるでデジタル・パノプティコンに生きるようなものだ。
現にSNS上では「ブラウザ重すぎ」「勝手にメール読んでて不気味」という声から、「Chromium系をやめてFirefoxに戻った」という人も観測される。
欧州のDMA(デジタル市場法)や独禁法もあり、今後は規制当局との綱引きも加速しそうだ。
一方でGoogleはAI Plusプラン(月額1200円、200GBストレージやGemini 3 Pro/Whiskなどの映像制作機能込み)を用意、初回2カ月600円という攻めた価格も展開中。
ChatGPT Go(月額1500円)と比べても安く見えるが、サブスクリプションサービスが乱立すると「サブスク疲れ」が増えてしまう懸念もある。
月額課金でユーザーをエコシステムに囲い込み、解約の心理的ハードルを上げる戦略もみえみえだ。
典型的な「ドア・イン・ザ・フェイス」の変則応用とも言える。
さらに興味深いのが、UCPのような共通EコマースAPI構想の難易度だ。
ShopifyやTargetなど、異なるバックエンドの上に横断的なインターフェースをかませて「カート投入」「決済」を標準化するのは至難の業だし、在庫管理やレイテンシ、トランザクションの整合性(ACID特性)を守ったAIハンドリングも大きな課題だ。
AIが「在庫あり」と判断して決済に進んだ瞬間に売切となった場合、エージェントがどこまでリトライし、どこで例外処理を行うか、そのテストケースを考えるだけで胃が痛くなる。
セキュリティ面では攻撃対象領域(アタックサーフェス)が一気に広がる。
AI深統合でプロンプトインジェクション攻撃の脆弱性が拡大し、悪意あるWebサイトが隠し命令を埋めて高額商品を「正規サイトで買え」などと誘導する、UCP認証の突破や確認画面の偽装など、新たな攻撃ベクターが増えそうだ。


技術的にはわくわくするけれど、現場のデバッグや保守まで考えると地獄絵図になる予感がある。
AIが財布も記憶も鍵も預かろうとする時代、便利さを享受する前に「自分、これでいいの?」と、一度は立ち止まって考えてみたくなる。
そんな進化の只中にいることを、今、しみじみと感じている。

