日本の多くの企業では、基幹システムが長年にわたり機能追加や改修を繰り返され、いつの間にか複雑で解読不能なブラックボックスとなっています。
システムの中身を詳しく知っているのは一部のベテラン社員だけ。
設計書や仕様書も不十分なまま、知識が属人化してしまい、外部からは動いていることしか分かりません。
「とにかく止まらず動いている」ことだけが評価され、内部構造の改善やドキュメントの整備は後回しになりがちです。
1970年代の高度経済成長期に独自開発されたシステムは、オフコンやメインフレームの時代からの流れをくみ、現場の要望に応じてカスタマイズを重ねてきました。
しかしこのやり方を続けているうちに、どの現場、どの工場でも同じ名前のシステムなのに仕様がバラバラという状況になり、システムの共通化や情報の集約が困難になっています。
その結果、保守・運用にかかる費用だけが年々膨らみ、IT予算の大半が「今動いているものをそのまま維持する」ために消えてしまいます。
結果として、新しいビジネスや変革への投資を後回しにせざるをえない悪循環に陥っています。
根本には経営・業務部門・IT部門の三重の分断構造があります。
経営層は「本当にシステム刷新がリターンにつながるのか?」と投資に慎重。
現場は変化への不安から現状維持を選びがちです。
業務部門は独自ロジックや複雑なカスタマイズを抱え、IT部門もすべてを把握しきれない。
外部ベンダーへの依存も進み、社内人材はどんどん孤立してしまう。
「経営と現場」「業務とIT」双方の断絶によって、組織として新しい一歩を踏み出す決断も遅くなりがちです。
近年はERPの導入やモダナイゼーションが解決策として謳われていますが、現実には新旧システムの併存や従来仕様の踏襲が続き、結局システムの数やコストが増大。
刷新が逆にさらなる複雑化を招くという“逆説”も起きています。
このような“変われないIT”の背景には、単なるシステムの老朽化だけでなく、分断した組織構造や改善を妨げる企業文化が深く根を張っています。
これは技術的な問題であると同時に、組織や人の問題でもあるのだと日々実感しています。
個人的には、こうした複雑で古いシステムの解析やリファクタリングにはワクワクしますが、本当は誰もが安心して理解できる設計や運用が望ましいはず。
ブラックボックス化を防ぐため、日々のドキュメント整備や知識の共有こそ、システム運用の要だと強く思います。

