イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンで、長年にわたり「歯を培養する」研究が進められている。
指導にあたるアナ・アンゲロバ・バルポーニ氏は、1980年代からこのテーマに取り組んでおり、2013年にはヒトとマウスの細胞を組み合わせて歯を培養することに成功したという。
ここで重要なのは、異なる種類の細胞同士が「会話」することで歯が形作られるという点。
この「対話」をいかに再現するかが、技術の大きなカギになっている。
最近の研究では、歯の成長に理想的な「足場」として、コラーゲンや高含水ポリマー(ヒドロゲル)などの新しい素材を使う工夫がなされている。
具体的には、マウスの胚細胞などを遠心分離して小さな「ペレット」にし、それをヒドロゲルの中に閉じ込めて培養。
8日後にはヒドロゲル内で歯の構造が現れ、さらにそれをマウスに移植すると、歯根やエナメル質といった歯の構造が発達するのだとか。
もちろん、まだ技術的に解決すべき課題は多い。
例えば、培養した歯をどうやって人間の日常の歯科治療に組み込むか。
アイディアとしては、成長途中の歯を抜けた部分の歯槽に埋め込む方法、または完全に成長した人工歯を外科的に移植する方法などがあるが、どちらが現実的かは今後検証が必要だという。
プログラマーの視点としては、「異種細胞の対話」や「最適な足場設計」など、まるで複雑なシステム同士のインターフェース設計や、環境最適化のアルゴリズムにも通じる部分があってとても面白い。
細胞同士の通信プロトコルを解析して人工的に再現する工程は、どこかAPI設計や疎結合の実現と似ている気がする。
いつか「歯の培養」が一般化したら、そのバックエンドはどんなロジックになっているのか、さらに掘り下げてみたくなる。

