数年前まで急激に成長を遂げていた電子コミック市場も、ここにきて伸び悩みや減速傾向が目立ち始めています。
各電子書店の売上データを見ると、上場企業でさえも横ばいや減少を記録し、かつての伸び率を維持できていません。
もちろん、公式な市場規模の統計上は依然として“増加”が示される場面も多いのですが、この背景には流通総額や販促費の計上方法の違いが絡んでおり、実質的な収益や採算性はむしろ下がっている状況です。
大きな要因の一つに、“レッドオーシャン化”という業界構造の変化があります。
スマートフォン時代に突入してから、参入企業が急増し、各社が他社ユーザーを奪い合うような無料施策やポイント還元施策に予算を投じてきました。
新規ユーザーを呼び込むためには、“1日待てば無料”や“シリーズ全巻一時無料”といった大胆な施策も一般的になり、これが一層競争を激化させています。
電子書店側は販促費という形で大きな持ち出しとなり、著作権者や出版社にも還元できる利益が目減りしかねません。
ポイントに代表される販促は、各書店にとって短期的な顧客囲い込みには有効でした。
しかし、キャンペーンの乱発で費用対効果が疑わしくなり、業界全体では赤字転落や撤退事例も目立ってきました。
結局のところ、無料で集まったユーザーの多くは、継続的な有料購読者に転換することなく、無料分だけ消費して離脱するケースが後を絶ちません。
利用率調査でも、有料ユーザー率は19%前後に下がる一方、無料ユーザー率は30%近くまで上昇しているのが現実です。
この構図は、過去の音楽市場のデジタル化・無料化とも重なります。
CDが売れない時代に突入し、ストリーミングや広告モデルが主流となるも、アーティストや作家への分配は減るばかり。
出版界でも同じ流れが進み、無料施策に依存しすぎた電子コミックの現場に、著者や版元への負担・収益減が押し寄せています。
今後、新しい才能が適切に報酬を得られなければ、コンテンツ供給そのものが縮小するリスクも否定できません。
こうした問題をデータで追いかけていくうちに、やはり本来“有料”であるべきものはその価値できっちり価格がつくべきだと感じます。
無料に安易に頼るだけの集客や、短期的な既存ユーザーの奪い合い競争は、市場や技術の健全な進化を妨げる要因にほかなりません。
APIなどを活用してユーザー行動を細かく分析できる今だからこそ、“どこまでの無料が最適で、どこからは有料化すべきか”を再定義し、著者・出版社としっかり協調する柔軟なプロダクト設計が不可欠だと強く思います。

