昔から冬になると、窓辺に立つたびにひんやりとした空気が流れ込んでくるのを感じてきた。
「窓際は寒いもの」という常識が長く続いてきた理由は、いくら壁や天井を分厚く断熱しても、窓がどうしても熱の出入り口になっていたからだ。


プチプチ(気泡緩衝材)を貼ると多少は温かくなるけれど、外の景色は消えてしまう。
光を通して熱を遮る、そんな「夢の窓」なんてものは、これまで技術的にも難しかった。
ところがコロラド大学ボルダー校の研究チームが開発した「MOCHI(モチ)」は、この常識を根本から変える新素材だ。
見た目は完全に透明、可視光の99%以上を通し、熱は空気すらも下回る驚きのレベルで遮断する。
0.010〜0.012 W/(m・K)という熱伝導率は、従来の窓ガラス(0.8〜1.0 W/(m・K))の約80〜100分の1。
比較の対象となる空気よりさらに断熱が高い。
手のひらサイズのMOCHI板を重ねてバーナーで炙っても、熱が伝わってこない実験映像には、思わず声が出てしまったほど。
このMOCHI、どこが凄いかというと、その仕組みが超微細な穴の集合体。
平均約30ナノメートルという穴の大きさは、光の波長よりずっと小さいので散乱しにくく、目には全く曇って見えない。
一方、熱の運び役である空気分子の動きを封じ込めるにはベストなサイズでもあるという絶妙な設計だ。
シリコーンという柔らかな素材の中に、界面活性剤を使って細い穴を無数に作り出す——まるで科学と工学の合わせ技。
ヘイズ(光の乱反射)も極めて低く、3センチもある厚さでも曇りなく透明を保つところも感心してしまう。
しかも耐久性も十分にあり、5年以上貼っても性能は下がらず、温度や力にも強いという。
近年話題になった真空ガラスや透明エアロゲルともまた違うアプローチ。
フィルム状にもできるため、既存の窓ガラスに後から貼るだけで断熱性能を大幅アップできるのが現実的だと感じた。
シミュレーションでは、普通の一軒家をMOCHI窓にすると冷暖房のエネルギー消費が半分近く減るという。
設計次第では分厚い壁を作らずとも大きな窓で開放的な空間を保ちつつ、暖かさ・涼しさを両立できる。
これは建築の発想そのものが変わりそう。
しかも、熱の遮断だけにとどまらず、光は自由に通す・熱(赤外線)は閉じ込めるという分離制御ができる点、アイデア次第で応用範囲が広がると感じた。



たとえば透明なまま保温性のある特殊衣料や、集熱パネルの設計まで、想像力がかき立てられる。
今はまだ実験室レベルで、量産や価格面には課題も残るが、材料自体は汎用性も高く、製造工程も確立されれば一気に普及する可能性がある。
何より素材の名前「MOCHI」が、正式には「Mesoporous Optically Clear Heat Insulator」の略だという遊び心も最高。
こういう「理論通りなら革命」な新素材が現実味を帯びてきて、ちょっとワクワクしている。
未来の窓は、寒くも暑くもない、景色もそのまま、エネルギーも節約。
そんな世界がもうすぐやって来るかもしれないと思うと、新しいものを作る手もつい止まらなくなる。

