2024年1月、Appleが突如提供を開始した「Apple Creator Studio」。
月額1,780円という破格で、動画・音楽・画像編集からクリエイティブ作業全般を統合してしまった。

Final Cut ProやLogic Proといったプロ向けアプリに加え、先日買収が話題となったPixelmator Pro iPad版まで含む。
これは「Adobe一強時代」への宣戦布告だとしか思えない。
利便性の裏側で、多くのクリエイターが心理的な「ロックイン効果」に戸惑っているのも事実だ。
サブスクリプション疲れと呼ばれる現象や、「所有権の喪失」への反発はSNSで吹き上がり、買い切り型への支持やプロユーザーの叫びも根強い。
しかもWindowsやAndroidなど、他のプラットフォームからは排除され、Appleのクローズドエコシステムがますます強化されていく。
そのため制作環境の多様性が損なわれ、「ガラパゴス化」する懸念が強まっている。
とはいえ、プライシング戦略は絶妙だ。
Adobe Creative Cloudの「月数千円〜一万円近い」定額制に比べると、心理学的な「対比効果」で極めて安価に映る。
さらにAppleとOpenAIの生成AIモデルも組み込まれた。
オンデバイスAIを強調しつつ、外部クラウドの生成AIも使う。
機密性の高い素材を扱うプロからすれば、「情報の非対称性」への不安は消えない。
AIによる自動化機能は作業効率を劇的に向上させる一方、職人技や積み上げてきたスキルがアルゴリズムで置き換えられる「存在脅威」も投げかける。
思い返せば、かつてFinal Cut Proのバージョン7からXへの移行時、多くのプロが既存ワークフローの崩壊に離反した。
今回の統合は、Appleシリコンと垂直統合モデルによる市場独占の未来を予感させる。
ネットワーク効果でユーザーが増えれば増えるほど、Apple以外のツールを使う人への不利益が拡大し、社会全体のデジタル依存度は「デジタルガラパゴス」化していきそうだ。
洗練されたUIの裏で、生成AIというブラックボックスがクリエイティビティの定義を書き換えようとしている。


プログラマーとして見ると、Apple Creator Studioの完成度は圧巻だ。
表面上の機能にとどまらず、Appleシリコン(Mシリーズチップ)のNeural EngineやUnified Memoryを最大限活用するフレームワークとアプリの設計が一体化している。
一般的なAI処理を多用するソフトウェアではGPUリソース競合やVRAM不足に悩まされるものだが、macOSとハードウェア、サブスク型アプリが見事に垂直統合され、他社には真似できないゼロレイテンシの体験を実現している。
Pixelmator ProのiPad移植もApple PencilやMetal APIに最適化されていて、その技術力には舌を巻く。
ただ、一人のエンジニアとしては、OpenAIモデルの組み込み方に少し危うさも感じる。
Appleは「オンデバイスプライバシー完結」を看板に掲げるが、利便性をとってクラウドAI(LLM)との連携を増やしている。
データ処理の抽象化でユーザー匿名性を守ろうとしているものの、その実装の詳細がとても気になる。
個人的な感想としては、この価格破壊には「開発者泣かせ」の側面もある。
高品質なツールが1,780円で手に入り、サードパーティや個人開発、中堅ベンダーが太刀打ちできる余地がますます少ない。
プラットフォーム側が自ら「キラーコンテンツ」をサブスクで囲いこむ戦略は、エコシステムの競争を弱める諸刃の剣だと感じるし、どこか寂しさも覚える。

