人間の脳がどのように働いているのか、それを模倣する新しい電子回路を科学者たちが作り出しました。
古くから「脳のようなコンピューター」を実現しようという発想はありましたが、従来のプロセッサー(たとえばインテルやIBMのチップ)は、あくまでシリコンを使い、脳内のニューロンとは大きく違う動作をしていました。
今回、マサチューセッツ大学のチームが行った大きな進歩は、実際のニューロンと同じくらいの低い電圧で発火できる人工ニューロンを作り出したことです。
そのコアには「メムリスタ」と呼ばれる新しい素子が使われており、これは微生物から取り出したタンパク質のナノワイヤによって出来ています。
このナノワイヤは自然な低電圧で電気が流れ、まるで生物のニューロンそっくりの反応を示します。
さらに注目したいのは、この人工ニューロンが「化学信号」にも反応できることです。
ナトリウムやドーパミンといった、生体神経と同じ物質に応答して発火頻度を変える仕組みはとても生物的で、従来の完全な電子チップにはなかった特徴です。
また、消費電力もピコジュール単位と極めて小さい。
人間の脳が約20ワットで働くのに対し、現在の人工知能に使われるデータセンターはメガワット級の電気を消費してしまうので、この技術の進化は省エネ面でのインパクトも大きいと思います。
実際、この人工ニューロンは心臓の細胞などに信号を送って自然なリズムを生み出すこともできました。
つまり、機械と生体細胞のインターフェースとしてかなり有望です。
今後は、医療診断や創薬の分野でも活躍が期待されているようです。
この研究を見て強く感じたのは、従来のトランジスタやシリコンだけで考える限界と、生物に学ぶ発想との違いです。
たとえばナノワイヤの自作や、化学信号に応答するような回路づくり…とてもワクワクします。
こうした低消費電力で生物に近い仕組みがもっと使いやすくなれば、ハードウェア側からAIや機械学習の進化を後押しできるかもしれません。
自分でもいろいろ試したくなる分野です。

